生理前に眠くなるのはなぜ?眠さの原因と対処法

監修者:産婦人科医 原野 尚美

最終更新日

生理前に眠くなるのはなぜ?眠さの原因と対処法

「生理前になると、どうしても眠くて仕事にならない」「しっかり寝たはずなのに、会議中に意識が飛んでしまいそう…」

生理前のこうした抗えない眠気、実は多くの女性が抱えている悩みです。自分の意志とは関係なく襲ってくるため、仕事や家事が手につかず、「自分は怠けているのではないか」「気合が足りないのかな」と自己嫌悪に陥ってしまう方も少なくありません。

でも、安心してください。その眠気はあなたのせいではなく、女性ホルモンの変化による体の自然な反応であることが多いのです。

今回は、生理前に眠くなる医学的なメカニズムや、妊娠初期症状との見分け方、そして忙しい日々の中でも取り入れやすい具体的な対処法について解説します。辛い時期を少しでも快適に過ごすためのヒントになれば幸いです。

生理前に眠くなる4つの主な原因

生理前に眠くなる4つの主な原因

普段は元気なのに、生理前だけ泥のように眠くなる。この症状は「月経関連過眠症」とも呼ばれ、PMS(月経前症候群)の代表的な症状の一つです。

なぜ生理前になるとこれほどまでに眠くなるのでしょうか。主な原因は、女性ホルモンのダイナミックな変動や、それに伴う栄養状態の変化にあります。

1. プロゲステロン(黄体ホルモン)の分解産物による催眠作用

排卵から生理前の「黄体期」には、プロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンの分泌が急増します。

このプロゲステロンが体内で分解される際、「アロプレグナノロン」という物質が生成されます。アロプレグナノロンは、脳内の神経伝達物質(GABA受容体)に作用し、強力な催眠作用や抗不安作用をもたらすことが分かっています。

つまり、体が「天然の眠り薬」のような物質を自ら作っている状態になるため、気合だけでは抗えない眠気が生じるのです。

2. 基礎体温の上昇による睡眠リズムの乱れ

質の良い睡眠には、体温の変化が深く関係しています。通常、人は夜になると体の深部体温が下がり、それによって脳が休息モードに入って深い眠りにつきます。

しかし、生理前はプロゲステロンの働きによって基礎体温が高い状態(高温期)が続きます。日中と夜間の体温差が少なくなってしまうため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりしがちです。

その結果、夜間の睡眠の質が低下し、日中に強い眠気を感じてしまうのです。

3. 自律神経のバランスの乱れ

ホルモンバランスの急激な変化は、自律神経にも影響を与えます。

日中は活動モードの「交感神経」、夜はリラックスモードの「副交感神経」が優位になるのが理想ですが、生理前はこの切り替えがうまくいかなくなることがあります。

日中に副交感神経が優位になってぼーっとしたり、逆に夜に交感神経が昂って眠れなくなったりする悪循環が生じやすくなります。

4. 鉄分不足(隠れ貧血)

意外と見落としがちなのが「鉄分不足」です。女性は毎月の生理で鉄分を失うため、慢性的な鉄欠乏状態にある方が少なくありません。

鉄分が不足すると、酸素を全身に運ぶヘモグロビンがうまく働かず、脳が酸欠状態になりやすくなります。これが「だるさ」や「眠気」として現れることがあります。

生理前に症状が強くなる場合は、ホルモンだけでなく貧血の可能性も考えられます。

目次

ただの眠気?それとも妊娠?症状の見分け方

生理前の眠気は、妊娠初期の症状(つわりなど)とも非常によく似ています。「もしかして妊娠?」と不安や期待を感じる方もいるでしょう。

決定的な違いを見分けるのは難しいですが、一般的な傾向としてのチェックポイントをご紹介します。

比較項目生理前(PMS)の場合妊娠初期の場合
眠気の時期生理開始とともにスッと治まることが多い生理予定日を過ぎても続き、長期間続く傾向がある
基礎体温生理が始まると低温期に戻る(下がる)生理予定日を過ぎても高温期が続く
その他の症状下腹部痛、イライラ、肌荒れ、食欲増進など生理が来ない、少量の出血(着床出血)、匂いに敏感になるなど

※上記はあくまで一般的な傾向です。個人差が大きいため、症状だけで断定はできません。

基礎体温をつけている場合、高温期が17日以上続いているなら妊娠の可能性があります。生理が遅れている場合は、自己判断せずに妊娠検査薬を使用するか、早めに産婦人科を受診しましょう。

生理前のつらい眠気への対処法

生理前のつらい眠気への対処法

「眠くても、どうしても頑張らなきゃいけない」という場面もあると思います。日常生活で無理なくできる対策をいくつかご紹介します。

1. 太陽の光を浴びて体内時計をリセット

朝起きたら、まずはカーテンを開けて日光を浴びましょう。強い光を浴びることで、脳内で「セロトニン」の分泌が促され、体内時計がリセットされます。

これにより、夜になると自然に眠くなる「メラトニン」の分泌リズムが整いやすくなります。曇りの日でも窓際で過ごすだけで効果が期待できます。

2. 血糖値を急上昇させない食事(ベジファースト)

食後の耐え難い眠気は、血糖値の急降下(血糖値スパイク)が原因かもしれません。生理前はインスリンの効きが悪くなり、血糖値が変動しやすくなっています。

食事の際は、野菜や海藻類(食物繊維)から先に食べる「ベジファースト」を意識し、糖質の吸収を緩やかにしましょう。また貧血対策として、赤身肉や魚、小松菜などの「鉄分」を積極的に摂ることも、だるさ軽減に繋がります。

3. 15分程度の「パワーナップ(仮眠)」

眠気が限界の場合は、我慢せずに15分〜20分程度の短い仮眠(パワーナップ)を取りましょう。

ポイントは「30分以上寝ないこと」と「完全に横にならないこと」です。深く眠りすぎると起きた後に倦怠感が残り、夜の睡眠にも悪影響を与えます。机に伏せる、椅子の背もたれに寄りかかる程度で短時間に済ませると、脳がリフレッシュします。

4. 可能な範囲でお風呂に浸かる

生理前の高温期は、深部体温が下がりにくく寝つきが悪くなりがちです。理想は就寝の90分前にお風呂に浸かることですが、忙しくて難しい日もありますよね。

そんな時は、シャワーで首の後ろや足首を重点的に温めたり、寝る前に少しだけ足湯をしたりするだけでもOKです。「体温を一度上げて、下がるタイミングを作る」ことが入眠スイッチになります。

薬やピルを活用した医療的な選択肢

薬やピルを活用した医療的な選択肢

生活習慣の工夫だけでは改善せず、仕事や生活に支障が出るレベルであれば、医療の力を借りるのも賢い選択です。我慢を美徳とせず、医師に相談してみましょう。

低用量ピルの服用

低用量ピルは、排卵を抑制し、女性ホルモンの波を一定に保つお薬です。服用することでプロゲステロンの急激な変動が抑えられるため、生理前の眠気やPMS(イライラ、腹痛など)、月経困難症の改善効果が期待できます。

現在では、避妊目的だけでなく、生理に伴う様々な不調をコントロールするための「治療の選択肢」として広く利用されています。

※ピルは医薬品です。服用初期には吐き気などのマイナートラブルが起こる場合があるほか、稀に血栓症などの重篤な副作用のリスクがあります。必ず医師の診察・処方のもと服用してください。

漢方薬の活用

ホルモン剤の使用にためらいがある方や、体質改善を目指したい方は、漢方薬という選択肢もあります。

  • 加味逍遙散(カミショウヨウサン): イライラや精神不安が強く、のぼせ感がある方など。
  • 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン): 肩こりや頭痛があり、冷えのぼせがある方など。
  • 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン): 貧血気味で冷え性が強く、むくみやすい方など。

生理前の眠気に関するQ&A

Q. カフェインで眠気を飛ばしても大丈夫?

適量ならOKですが、タイミングに注意が必要です。

一時的な眠気覚ましとしてコーヒーや紅茶は有効ですが、生理前は胃腸が敏感になっていることもあるため、摂りすぎには注意しましょう。また、カフェインは鉄分の吸収を妨げることがあるため、食事中より食間に飲むのがおすすめです。夕方以降は夜の睡眠の質を下げるため控えましょう。

Q. 市販の睡眠改善薬を使ってもいいですか?

一時的なら可能ですが、根本解決にはなりません。

薬局で買える睡眠改善薬(抗ヒスタミン成分など)を使用することも可能ですが、これらはあくまで一時的な対処療法です。眠気が長引く場合や、日常生活に支障が出るレベル(睡眠障害の疑い)であれば、自己判断で連用せず、医療機関に相談することをおすすめします。

Q. ピルを飲み始めたら、逆に眠くなりました…

飲み始めの一時的な副作用の可能性があります。

ピルの飲み始め(特に1〜3シート目)は、ホルモンバランスの変化により一時的に眠気、だるさ、頭痛などが生じることがあります。多くの場合、2〜3ヶ月飲み続けるうちに体が慣れて治まりますが、症状が辛い場合や長く続く場合は、ピルの種類が合っていない可能性もあります。我慢せず医師に相談して種類の変更などを検討してみてください。

まとめ

生理前のどうしようもない眠気は、あなたの体がホルモンの変化と戦っている証拠です。「だらしない」と自分を責めず、まずは「今は体を休める時期」と割り切って、仮眠をとったりリラックスしたりして体を労わってあげてください。

それでも改善しない場合や、毎月辛い思いをしている場合は、低用量ピルや漢方薬を活用することで、驚くほど毎日が楽になることもあります。婦人科へ行く時間が取れない方は、スキマ時間に相談できるオンライン診療などを活用するのも一つの手です。一人で抱え込まず、専門家に気軽に相談してみてくださいね。

参考文献

  1. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. "月経前症候群(PMS)".
  2. 厚生労働省. "健康づくりのための睡眠指針 2014".
  3. e-ヘルスネット(厚生労働省). "女性の睡眠障害".
  4. 一般社団法人 日本女性心身医学会. "月経前症候群(PMS)".
  5. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. "低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤 ガイドライン(案)".

産婦人科専門医 原野尚美

監修者
産婦人科専門医原野 尚美

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